閑話挿入

大和の国大平原戦場ではこの年も飽きもせず日毎戦いに明け暮れていた。
武蔵の国にひっそりと佇む薬流都藩、覇権を安芸の松茸東洋藩に奪われ。ここ数年は
特に一昨年などは壊滅的な負けを喫してしまっていた。
燕城を任されている城代家老、小川地藏の守(かみ)淳司は今ひたすら思案に暮れて
いた。
全ては石山本願寺砦が落ちてからがケチのつき始めなのか。原樹理之慎が秘かに籤を
隠し持っているとの噂が藩中に蔓延し、特に若手の動揺をこの度は年寄方に位置する
大引刑部までもが、地に足が手に弾が着かない所作。この乱れに他の藩士たちの護り
も崩れ、攻め手では抜刀・長槍の中折れ無鉄砲の弾無しと、目にするも無残な有体。
藩士の士気も大きく崩れだしていたのだった。

そもそも勘定奉行として城内にとどまり、戦場には出ぬつもりが前城代真中満心之丞
勘違の守が記録的大敗を犯し更迭されると、再び現場に呼び戻される羽目に至ってし
まっていたのだった。
渋々ながらも参謀に宮本鬼之介、剣術指南に石井沸琢朗、外回り忍術指南には河田醤
雄祐、投守指南に田畑耕作、内回忍術指南に土橋掛之介等、そうそうたる面々で望み
先での戦いでは序盤こそ苦しみながらも戦の鞘納の期迄には僅かながらの貯えもでき
ていたのであった。
上々の目出度き正月を迎えつつ、いざ今年こそと万全の揃えで…。否、今思うに年末
若手武士争奪籤引き合戦での、あの運の無さ。引くたびに幾たびかの外れ…、真中の
不始末の余韻か、それとも…。返す返すも籤運の無さに己の運の無さを嘆くのであっ
た。え~い、籤を独り占めした樹理之慎め…。赦すまじ。
といえども藩内の根尾野武士奪取の気運に押し通されてしまったが故の敗因かもしれ
ぬ、本来我が藩の一番の手薄こそ先駆け投守武士の絶対数、他藩の尻馬に乗らず我が道を進むべきものを押し通せない己の弱さに、今更悔やんでも悔やみきれず。他藩の新手投守に手痛い傷を負わされ、勝鬨を揚げられるたびに下っ腹が疼き弛む我が身を嘆くのであった。

この度は戦事始めより皐月の鯉が空中を舞うあの時期まで、上々の貯えで来たもので
あったが。前述の本願寺砦が落ち、期待の助投、主亜無に異変が発症…。しょっくれす。投守の要、雷雲小川腿上之助は一槍二槍相見えるとさっさと敵場退散、石川鰹武士の本来なら切れ味鋭い左刀も今では錆びついたか黴ついたか、早々に刃こぼれを起
こす始末。秀投が得手で有った樹理之慎も女房役の中村角三の嫉妬を買ったのか息が
合わず。本来の猪突型独断思考と相まって散々の成績。

あの安芸での油断では無いが最終守りの締めを間違え許してしまった鯉の逆襲。
あれが事の始まりであろうか。
同じ安芸の地で緒戦に見せた一攻十二ダメージの秘技で、鯉に恋する乙女たちの涙を
誘った、あの所業による怨念が為せる不可思議な顛末なのであろうか。
勝てない、西の張り子の虎にも東海の龍頭蛇尾、連敗が続いていた相模の落下星にさ
え一方的な負け、この現状を打破する秘策…。無きものなのか…。思い浮かばぬ…。

あの錫杖から抜け落ちた十二の釻(カン)さえ甦れば…。(第六巻 消えた輪参照

う~ん、この責は原じゃ原!
こ奴に今宵命を賭して戦ってもらおうぞ

と、己の無策を顧みず、部下に責を擦り付ける小川地蔵の守であった。

一方の原の右腕には「燕命ならぬ暁命の文字が…」


なぁ~んて与太話でもしてなくちゃぁ~やってられないっすぅ~

※ これはあくまでもフィクションですので悪しからず